AI研修・生成AI研修の費用負担を軽くする公的制度の本命は、厚生労働省の人材開発支援助成金です。なかでも「事業展開等リスキリング支援コース」は、中小企業なら訓練経費の75%+訓練時間1人1時間あたり1,000円の賃金助成が目安と、助成率がもっとも手厚い水準にあります(調査時点: 2026年8月、金額・要件は支給要領での要確認が前提です)。
ただし急ぐ理由が1つあります。このコースと「人への投資促進コース」は令和4〜8年度の時限措置とされており、令和8年度(2026年度)が最終年度になる予定です。しかも申請は研修実施後の後出しができず、訓練開始日の1か月前までに訓練計画届の提出が必要です。「研修会社を決めてから制度を調べる」順番だと、この期限に間に合わないことがよくあります。
研修費用に使えるのは「補助金」より「助成金」
最初に探す場所を間違えないための整理です。研修そのものの費用を軽くしたいなら、公募・審査型の補助金ではなく、要件を満たせば原則受給できる助成金(厚生労働省所管が中心)から当たります。補助金(IT導入補助金など経済産業省・自治体所管が中心)は、研修ではなくAIツールやシステムの導入費用側が対象になることが多い制度です。
この2つの制度の性質の違いはAI研修・生成AI研修の費用相場の比較表で整理しているので、そちらも参照してください。本記事はそのうち助成金側、特に人材開発支援助成金を深掘りします。
人材開発支援助成金のどのコースが使えるか
人材開発支援助成金(厚生労働省)は、事業主が従業員に職業訓練を実施した場合に訓練経費と訓練中の賃金の一部を助成する制度で、複数のコースに分かれています。AI研修で検討の軸になるのは次の2つです(調査時点: 2026年8月。数値は補助金ポータルの解説(2026年8月18日更新)および同・人への投資促進コースの解説(2026年8月21日更新)で確認したもので、いずれも厚生労働省の令和8年8月3日版資料に基づく記載です。最終確認は支給要領で行ってください)。
| コース | 対象になる訓練 | 経費助成率 | 賃金助成 |
|---|---|---|---|
| 事業展開等リスキリング支援コース | 事業展開・DXに伴い必要になる知識・技能の訓練(10時間以上のOFF-JT) | 75% | 1,000円/時 |
| 人への投資促進コース(高度デジタル人材訓練) | Reスキル講座認定講座など先端IT技術の訓練 | 75% | 1,000円/時 |
| 人への投資促進コース(定額制訓練) | サブスク型eラーニング(1人あたり標準学習時間10時間以上の修了) | 60% | — |
本命は事業展開等リスキリング支援コース
生成AIの業務活用研修のように「自社の事業のデジタル化に伴って必要になる訓練」は、事業展開等リスキリング支援コースの守備範囲です。経費助成には1人あたりの上限があり、訓練時間10〜100時間未満で30万円、100〜200時間未満で40万円、200時間以上で50万円、eラーニング・通信制は一律15万円、1事業所の年間上限は1億円とされています(中小企業・調査時点: 2026年8月)。
一般的なAI研修は半日〜数日+eラーニング併用の構成が多いため、1人あたり上限30万円(またはeラーニング15万円)のレンジで見ておくのが現実的です。ChatGPT社内研修のような単一ツールに絞った研修も、内容が自社業務に紐づいていれば同じ枠組みで検討できます。
2026年の改正で変わった点(要注意)
このコースは2026年(令和8年)に入って見直しが続いており、古い解説記事の情報のままだとつまずきます。主な変更点は次のとおりです(調査時点: 2026年8月)。
- 汎用的な内容の訓練は対象外と明確化: DX・GX関連の訓練でも「職業人として共通して必要となる」内容は対象外とされました。「とりあえず全社員にAIリテラシー研修」のような汎用構成では通りにくく、自社のどの業務のデジタル化に必要な訓練かを計画で示す必要があります。
- 受講回数の制限: 同一労働者が受講できるのは1年度3回まで、うちeラーニングは1回までとされました。
- 人事・人材育成計画に基づく訓練類型の追加(2026年3月): おおむね3年以内の人材配置・育成計画に基づく訓練が対象に加わりました。ただし中小企業がこの新類型を使う場合は訓練開始前に認定経営革新等支援機関の確認を受ける必要があり、訓練後の実施状況報告も求められます(イグナル・コンサルティングの解説(2026年3月12日))。
申請の流れ|計画届が先、支給は後払い
手順はシンプルですが、順番を間違えると受給できません。研修会社との契約前に、計画届の期限から逆算して動くのが鉄則です。
対象性の整理
10時間以上のOFF-JTか、事業展開・DXとの紐づけを言語化
コース選定と見積もり
費目ごとに内訳を分けた見積もりを取る
訓練計画届の提出
訓練開始1か月前まで(受付は6か月前から)に労働局へ
訓練の実施と記録
出席・実施記録、eラーニングは修了履歴を保存
支給申請
訓練終了日の翌日から2か月以内。支給は後払い
とくに注意したいのは次の2点です。
- 支給は後払い: 研修費用はいったん全額自社で支払い、支給申請が通ってから助成分が入金されます。「助成金があるから手元資金がなくても受講できる」わけではありません。
- 対象になる費目が限られる: 同じ見積もりでも、講師料は対象で会場費や教材の一部は対象外、といった線引きがあります。見積もりの段階で費目を分けてもらっておくと、支給申請で困りません。
東京都内なら「DXリスキリング助成金」も選択肢
都内の中小企業には、公益財団法人東京しごと財団のDXリスキリング助成金という独自制度があります。DX関連の研修経費の3/4を助成、1人1研修あたり上限75,000円・1社の年間上限100万円で、こちらも研修開始予定日の1か月前までの事前申請が必要です(令和8年度・調査時点: 2026年8月。補助金ポータルの解説(2026年8月5日更新)で確認)。
ただし、同じ研修について国や自治体から他の助成を受けている(受ける予定がある)場合は対象外という要件があるため、人材開発支援助成金との重ね掛けはできません。助成率と上限額を自社の受講人数で試算し、どちらか有利なほうを選ぶことになります。東京都以外でも、自治体が独自のリスキリング助成を設けている場合があるので、所在地の自治体名と「DX 人材育成 助成」などの語で公式案内を確認してください。
助成金ありきで研修を選ばない
最後に順番の話です。助成金は自己負担を下げる手段であって、研修の目的から逆算して設計しないと「安く受けたが使われない」で終わります。とくに2026年の改正で汎用的な内容が対象外になった以上、「自社のどの業務に生成AIを組み込むための訓練か」を先に決めることは、助成金の要件面でも研修の効果面でも避けて通れません。
当社のAI研修と導入支援を含むAI顧問の提供内容は、業務の棚卸しで使いどころを特定してから研修を設計し、社員が自分で使える状態になるまで支援する構成です。受講人数と対象部門が決まっていれば、助成の対象になり得る構成かどうかも含めて見積もり時に整理できますので、お問い合わせください(助成金の申請手続きそのものは、管轄の労働局または社会保険労務士への確認が必要です)。少人数の会社での研修の組み方は中小企業のAI研修にまとめています。
まとめ
AI研修・生成AI研修の費用には、人材開発支援助成金の事業展開等リスキリング支援コース(中小企業で経費の75%+賃金助成1,000円/時が目安)が使える場合があります。ただし令和8年度が最終予定の時限措置であること、訓練開始1か月前までの計画届が必須で支給は後払いであること、2026年の改正で汎用的な内容は対象外と明確化されたことの3点は押さえておく必要があります。都内なら東京都のDXリスキリング助成金(3/4・年間上限100万円)との比較も有効です。制度の数値・要件はすべて調査時点(2026年8月)のもので、実際の利用にあたっては厚生労働省の支給要領と管轄の労働局・自治体の公式案内で必ず確認してください。