情シス・総務に集まる社内問い合わせを減らすには、直近1〜2か月の質問を種類別に数え、件数の多い定型の質問からFAQにまとめ、FAQで答えられる範囲だけをチャットボットや生成AIに受けさせる、という順で進めます。いきなりAIを入れるより、この順のほうが回答の作り込みに無駄が出ません。

総務省「令和8年版 情報通信白書」によると、社内ヘルプデスクで生成AIを利用している日本企業は**50.9%です。一方で、効果を感じると答えた割合は42.7%**で、議事録・メール作成補助の72.3%より30ポイント近く低くなっています(調査時点: 2026年10月)。社内問い合わせへのAIの導入はすでに珍しくありませんが、入れただけでは件数が減ったと感じにくい業務だと読めます。

以下で、なぜ社内問い合わせが減らないのか、何を数えるか、使われるFAQの作り方、AIに任せる範囲の線引き、効果の測り方を順に整理します。

質問を数える

直近1〜2か月の質問を一覧にし、定型と個別対応に分けて件数を数える

定型をFAQにまとめる

件数の多い質問から、実際の聞き方を見出しにして1か所にまとめる

AIに一次回答させる

FAQに書いてある範囲だけをAIに答えさせ、それ以外は担当者に回す

月ごとに数えて足す

受けた件数と自己解決の件数を比べ、答えられなかった質問をFAQに足す

Fig. 01 — 社内問い合わせを減らす4ステップ

社内問い合わせはなぜ減らないのか?

社内問い合わせが減らない理由は、答えがどこかに書いてあっても、社員にとっては「探すより担当者に聞いたほうが早い」状態にあることです。多くの会社で、回答は次のように散らばっています。

  • 就業規則や経費規程のPDFが共有フォルダにある
  • 手順書が社内ポータルとチャットの過去ログに分かれている
  • 去年の回答は担当者のメールの中にしかない

この状態では、規程が整っていても質問は担当者に集まります。担当者が1人か2人の会社では、その人が休むと答えられる人がいなくなります。

白書のデータもこの見方と合っています。社内ヘルプデスクでの生成AIの活用状況を見ると、「未導入」が28.8%、利用している企業が50.9%(業務プロセスがAI中心に変わっている11.9%、部署内の特定業務で活用20.7%、従業員が個人作業の効率化で活用18.3%)でした。利用は広がっているものの、効果を感じる割合は42.7%で、議事録・メール作成補助(72.3%)との差が大きい結果です(総務省「令和8年版 情報通信白書」生成AIの業務利用状況、図表Ⅰ-2-1-7)。

50.9%

社内ヘルプデスクで生成AIを利用している日本企業の割合(総務省「令和8年版 情報通信白書」)

42.7%

社内ヘルプデスクで生成AIの効果を感じる割合(同)

72.3%

議事録・メール作成補助で生成AIの効果を感じる割合(同)

議事録やメールの下書きは、AIが参照する材料(会議の録音、元のメール)がその場にそろっています。社内問い合わせは、答えの材料が社内の各所に散らばっているため、AIを入れても材料が無ければ正しく答えられません。社内問い合わせでAIの効果を出すには、先に答えの材料を1か所にそろえる作業が要ります。

まず何を数えればよいか?

最初に、直近1〜2か月に受けた質問を、チャット・メール・口頭の区別なく一覧にします。口頭の質問は記録が残らないので、2週間だけでも担当者が受けた質問をメモしておくと実態に近づきます。

一覧ができたら、質問を次の3種類に分けて件数を数えます。

社内問い合わせの分け方と受け方
種類例受け方
定型の質問パスワードの再設定手順、経費精算の締め日、有給休暇の申請方法FAQにまとめ、AIに一次回答させる
個別の事情を聞く質問自分の場合は在宅勤務手当の対象か、この出張は規程のどれに当たるかAIが下書きを作り、担当者が確認して答える
判断や操作が要る依頼規程の例外の承認、アカウント権限の付与、給与・評価の個別相談担当者が対応する

弊社(株式会社wren)は社外からの問い合わせメールで同じ分け方をしています。自社開発のAIコパイロット「CS Copilot」が受信メールを定型・要判断・緊急に分類し、定型には過去の回答を参照した返信の下書きを付けます。人に通知が来るのは要判断と緊急だけです。分類を始めて分かったのは、時間を取っていたのは返信を書く作業より「1通ずつ開いて、対応が要るかを判断する回数」だったことでした。朝のメール処理は1〜2時間から、要判断の数件を見る3分になっています(以下は導入企業の事例ではなく、弊社自身の社外問い合わせの運用です。詳細は『「メール当番」をAIに引き継いだ日』)。

社内問い合わせでも、件数を数えてみると、定型の質問が上位数パターンに集中していることがよくあります。上位から順にFAQにすれば、少ない作業で件数の多い部分を減らせます。

社内FAQはどう作れば使われるか?

FAQを作っても質問が減らない場合は、次の3点を見直します。

  • 回答の置き場所を1か所に決める: 社内ポータル、Notion、Googleドキュメントなど、社員が普段開くツールの中に1か所だけ置きます。規程のPDFはそのページからリンクし、FAQの本文には「結論」と「手順」を書きます。
  • 見出しを実際に来た質問の言葉で書く: 「旅費規程第5条」ではなく「出張の新幹線はグリーン車を使ってよいか」のように、一覧で数えた質問の言い方をそのまま見出しにします。社員が検索する言葉と一致し、AIに読ませるときも質問と回答を対応させやすくなります。
  • 更新の担当と周期を決める: 規程や手順が変わったときに誰が直すかを決め、四半期に1回は古い回答がないかを見直します。古い回答が1つ見つかると、社員は他の回答も疑って担当者に聞き直すようになります。

FAQページの冒頭に「ここに無い質問は〇〇チャンネルへ」と書いておくと、FAQに無い質問が担当者の個人宛てに散らばらず、次に足すFAQの候補として集まります。

AIにはどこまで任せられるか?

FAQがまとまったら、チャットボットや生成AIに一次回答を任せます。このとき、AIが答えてよい範囲をFAQに書いてある内容に限るのが基本です。FAQに無い質問にAIが推測で答えると、もっともらしい誤回答が社内に広がります。

弊社では、AIに任せる作業を「自動可・要レビュー・手動のみ」の3段階に分けて運用しています。基準は「AIが間違えたときに取り返しがつくか」です。社内問い合わせに当てはめると次のようになります。

  • 自動可: FAQに答えがある手順・締め日・申請先の案内。間違っていても担当者がすぐ訂正できる
  • 要レビュー: 個別の事情を聞く質問。AIが規程を参照して回答の下書きを作り、担当者が確認してから返す
  • 手動のみ: 規程の例外の承認、権限の付与、給与・評価・健康に関わる個別相談。AIには答えさせない

(弊社の運用の詳細は『深夜2時に働くAI社員』で公開しています。)

社内問い合わせへのチャットボット導入では、鉄道事業の会社が情報システム部のヘルプデスク業務を約30%効率化した事例が報告されています(リコー)。削減の幅は、定型の質問が全体の何割を占めるかで変わります。最初に数えた一覧で定型の割合を見ておくと、導入前に見込みを立てられます。

効果はどう測ればよいか?

効果は、次の3つを月ごとに数えて比べます。

  • 担当者が受けた件数: チャット・メール・口頭の合計。最初に作った一覧と同じ数え方にする
  • 自己解決した件数: FAQの閲覧数やAIが回答して終わった件数
  • 回答までの時間: 質問を受けてから答えるまでの時間。担当者の待ち時間が減ったかを見る

あわせて、AIやFAQ検索で答えが見つからなかった質問を記録しておきます。これが次に足すFAQの候補になり、2〜3か月続けると、担当者に届く質問は個別の事情を聞くものと判断が要るものに絞られていきます。

開始前の1〜2か月分を数えておかないと、比べる基準がなくなります。FAQやAIの準備より先に、まず数えることを始めてください。

社内で手が回らない場合の進め方

質問の棚卸しやFAQの整備は、担当者が日々の問い合わせに答えながら進めるには負担の大きい作業です。弊社のAI業務効率化では、総務・経理・営業事務などの間接部門の1業務から、質問の分類、FAQの整理、AIによる一次回答の仕組み作りと運用、担当者への引き継ぎまでを担当します。社内で契約済みのツール(Claude、ChatGPT、Gemini、NotebookLM など)を前提に設計し、新しいツールの契約を条件にしません。

料金は、AIの使い方の助言と社内への教え方を担当するAI顧問が月額12万円から、仕組みを作り運用まで担当する実装が月額30万円から(いずれも税別、2026年9月時点)で、90日ごとに成果を見直します。AI導入全体の順序は『中小企業のAI導入の進め方』、社外の顧客からの問い合わせを減らす方法は『問い合わせが増えすぎて対応できない時の対処』にまとめています。

まとめ

社内問い合わせは、答えが社内の各所に散らばっていて「聞いたほうが早い」状態のときに担当者へ集まります。減らすには、直近1〜2か月の質問を種類別に数え、件数の多い定型の質問からFAQにまとめ、FAQで答えられる範囲だけをAIに一次回答させます。AIに任せるかどうかは「間違えたときに取り返しがつくか」で分け、給与・評価・権限付与のような質問は人が答える側に残します。効果は受けた件数・自己解決の件数・回答までの時間を月ごとに数えて確かめます(本記事の数値は調査時点: 2026年10月)。