カスタマーサポート(CS)のコストは、オペレーターの給与だけではありません。人件費 + 採用費 + 教育費 + シフト管理 + システム費 + 品質管理の積み上げで決まります。だからコストを削るときも、「時給を下げる」ではなく、次の3方向のどこを動かせるかで考えると打ち手が見えてきます(調査時点: 2026年7月)。
- ① 件数を減らす: FAQ・セルフサービスの整備で、そもそも人が対応する問い合わせの総量を圧縮する。
- ② 1件あたりの工数を減らす: テンプレートやAIの返信ドラフト(人がレビュー)で、1件を処理する時間を短くする。
- ③ 固定費を変動費化する: 繁閑に合わせて外注を使い、正社員の固定人件費を「対応した分だけの費用」に変える。
まず①②で対応の総量を圧縮し、それでも残る波を③で吸収する——この順序が、品質を落とさずにコストを下げる現実的な進め方です。以下で、CSのコスト構造を分解したうえで、3つの打ち手と「内製の隠れコスト vs 外注の変動費」を出典付きで整理します。
弊社(株式会社wren)は一人会社で、CS担当を採用していません。自社に届く問い合わせは、自社開発のAIコパイロット「CS Copilot」が定型・要判断・緊急に分類し、定型には過去の回答を参照した返信ドラフトを付ける形で運用しています。人に通知が来るのは要判断と緊急だけで、朝のメール処理はかつての1〜2時間から、要判断の数件を見る15分になりました。送信ボタンを押すのは必ず人間です。
ここで削れたのは人件費そのものではなく、人が受信箱を開いて対応要否を判断する回数です。CSのコストは「1件あたりの単価×件数」で見られがちですが、実際に効くのは②の工数削減——人が判断する回数を減らせるかどうかでした(弊社の自社運用の実測です。詳細は『「メール当番」をAIに引き継いだ日——定型9割・判断1割の分業設計』)。
カスタマーサポートのコストは何でできているか
コストを削るには、まず「何にお金がかかっているか」を分解する必要があります。CSを内製で抱える場合、費用は大きく次の要素に分かれます。
- 人件費: オペレーターの給与。件数が少ない時間帯や閑散期にも固定でかかります。厚生労働省の令和7(2025)年賃金構造基本統計調査では、一般労働者の所定内給与額は男女計で月34.06万円、小企業(常用労働者10〜99人)でも月30.56万円でした(厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況」)。社会保険料の会社負担や賞与は別にかかるため、1人採用した時点での月次の下限がこの水準になります。
- 採用費: 募集・選考にかかる費用。中途採用は1人あたり平均103.3万円、新卒は93.6万円が目安です(株式会社リクルート 就職みらい研究所「就職白書2020」、2019年度実績)。
- 教育費: マニュアル整備と研修。離職のたびに再発するのが痛い部分です。
- シフト管理・SV(スーパーバイザー)費: 人員配置、勤怠、品質管理・レビューの工数。
- システム費: 問い合わせ管理ツール、電話・チャット基盤などの利用料。
このうち、給与明細に見えやすいのは人件費とシステム費だけです。採用費・教育費・シフト管理は月々の数字に表れにくいため見落とされがちですが、離職が続くと採用と教育が繰り返し発生し、実際のコストを押し上げます。CSのコスト削減は、この「隠れコスト」まで含めて棚卸しするところから始まります。
なお、コールセンター規模になると、内製の初期費用(システム導入・採用・教育)は数十万〜数百万円規模に達し、業種によっては1席あたり月額30万〜60万円程度が目安とされます(CENTRIC)。料金体系や件数帯別の金額の目安は、カスタマーサポート代行の費用相場で出典付きに整理しています。
打ち手① 問い合わせ件数そのものを減らす
対応1件あたりのコストを下げる前に、そもそも人が対応する件数を減らすのが最も効きます。件数が減れば、必要な人員も、それに伴う採用・教育・シフト管理のコストも連動して下がるからです。
- FAQ・ヘルプページの整備: 「よくある質問」を検索性の高い形で用意し、顧客が自己解決できる導線を作る。
- 問い合わせ導線の設計: 問い合わせフォームの前にFAQを挟む、注文番号の入力を必須にするなど、往復回数を減らす工夫をする。
- プロダクト・UIの改善: 同じ質問が繰り返し来るなら、原因は製品側にあることも多い。問い合わせログを製品改善にフィードバックする。
問い合わせが増えすぎて対応が追いつかない状態の切り分けと対処は、問い合わせが増えすぎて対応できない時の対処でも整理しています。件数削減は即効性は低いものの、効き始めると継続的にコストを押し下げる土台になります。
打ち手② 1件あたりの対応工数を減らす
件数を減らしても残る問い合わせは、1件を処理する時間を短くすることでコストを下げます。
- テンプレート・定型文の整備: 頻出の質問に定型回答を用意し、ゼロから書く時間をなくす。
- ナレッジの共有: 過去の対応履歴を検索できるようにし、調べ直しの時間を減らす。
- AIによる返信ドラフト生成(人がレビュー): AIが過去の対応やFAQをもとに返信の下書きを作り、担当者が確認・修正して送る。1件あたりの作文時間を短縮できます。
ここで重要なのは、AIが単独で顧客に返信する運用にはしないことです。コスト削減を優先してAIに丸投げすると、誤回答や不適切な対応が品質の低下・信頼の毀損につながり、結果的に対応のやり直しでコストが増えることもあります。AIは一次対応・下書き生成に使い、人が必ずレビューしてから送る設計にすると、コストを下げつつ品質のブレを抑えられます。この考え方は問い合わせの自動返信にAIを使うでも詳しく整理しています。
打ち手③ 固定費を変動費化する(外注)
①②で対応の総量を圧縮しても、問い合わせには**波(繁閑)**が残ります。セール時期・新製品リリース直後・特定の時間帯に集中する一方、閑散期は手が空く——この波を正社員だけで吸収しようとすると、ピークに合わせた人員を常に抱えることになり、閑散期の人件費が無駄になります。
外注(CS代行)は、この固定費を変動費に置き換える打ち手です。
- 人件費が「対応した分」に変わる: 従量課金型なら件数に応じた料金になり、閑散期の余剰人員コストが消えます。
- 採用・教育・シフト管理を委託先が負担: 自社で抱えていた間接コスト(採用費103万円クラス、離職ごとの再教育など)を外部化できます。
- 繁閑差が大きいほど効果が出る: 波が大きい事業ほど、変動費化の恩恵が大きくなります。
一方で、外注にも費用は発生し、ドメイン知識の引き継ぎとレビュー体制の確認が前提になります。「一次対応は外注・専門判断は自社」と切り分けるのが現実的な落としどころで、内製と外注をコスト構造で比べる考え方はカスタマーサポートは内製すべきか外注すべきかで整理しています。慢性的な人手不足が背景にある場合の選択肢はカスタマーサポートの人手不足を解決する4つの手段もあわせてご覧ください。
内製の「隠れコスト」と外注の「変動費」を並べて比べる
内製と外注を比較するとき、給与額だけを見ると外注が割高に見えることがあります。しかし公平に比べるには、内製に含まれる採用費・教育費・シフト管理・属人化リスクまで並べる必要があります。
| コスト項目 | 内製(自社雇用) | 外注(CS代行) |
|---|---|---|
| 人件費 | 固定(閑散期も発生) | 変動(対応分のみ) |
| 採用費 | 1人あたり約93万〜103万円 | 委託先が負担 |
| 教育費 | 離職のたびに再発 | 委託先が負担(初期の引き継ぎは必要) |
| シフト管理・品質管理 | 自社工数として発生 | 委託先が担当 |
| 向くケース | 少件数・営業時間内・製品知識が重い領域 | 件数増・繁閑差大・24時間/休日対応 |
採用費の目安(新卒93.6万円/中途103.3万円)はリクルート 就職みらい研究所「就職白書2020」(2019年度実績)より。これらの間接コストと外注の変動費を並べて初めて、どちらが自社にとって安いかを公平に判断できます。
コスト削減で失敗しない3つの注意点
- 「安さ」だけで選ばない: 単価が最も低い外注先が、品質・レビュー体制まで安いとは限りません。対応品質が落ちれば、クレーム対応ややり直しで結局コストが増えます。
- 削減の順序を守る: いきなり人員を削るのではなく、①件数削減 → ②工数削減 → ③変動費化の順で進めると、品質を保ちながら無駄を落とせます。
- 品質を担保する仕組みを残す: マニュアル、レビュー体制、エスカレーションのルールは削らない。特にAI活用時は「AIが下書き、人がレビュー」の枠組みを維持することが、コストと品質の両立の前提になります。
ゼンナゲCS(固定費を変動費化するCS運用代行)
コスト削減の選択肢の一つとして、当社が自社運用するCS運用代行「ゼンナゲCS」もご紹介します。ゼンナゲCSは、**AIが返信ドラフトを生成し、専門オペレーターが必ずレビュー・承認してから送信する(human-in-the-loop)**枠組みで、問い合わせ対応を運用代行するサービスです。AIが単独で顧客へ返信することはありません。
自社で抱えていた採用・教育・シフト管理の固定費を、対応量に応じた費用に置き換えることで、繁閑差の大きい事業ほど無駄を減らせます。料金は問い合わせ量の帯に応じた月額固定のプランで、固定費を変動費化するカスタマーサポート代行(ゼンナゲCS)の料金と対応範囲のページで公開しています。チャネル数やエスカレーションの範囲に応じた個別のお見積もりはお問い合わせからご相談ください。
ゼンナゲCSで動いているのは、弊社が自社の問い合わせ対応で毎日使っているCS Copilotと同じ仕組みです。以下は導入企業の事例ではなく、弊社自身の運用から言えることです。
- 削れるのは「判断の回数」で、件数そのものではない——弊社の受信箱でも、時間を食っていたのは返信を書く作業より、1通ずつ開いて対応要否を判断する作業でした。ここを分類で圧縮できるかどうかが、変動費に置き換えたあとの単価にも効きます。
- 電話を持たないぶん固定費が乗らない——ゼンナゲCSはメール・問い合わせフォーム・LINE公式アカウント・サイトチャットのテキストチャネルを標準とし、電話は標準チャネルに含めていません(電話が必要な範囲は個別にご相談のうえ、対応可否と体制をご提案します)。席とシフトを前提にした体制を持たない構成です。
- 立ち上げ期はレビューの手数が多い——ドラフトの品質は過去の対応履歴の蓄積で決まるため、履歴が薄いうちは人の修正が多く入ります。導入直後の工数を実際より軽く見積もらないほうが安全です。
削減の打ち手として外注を検討するときは、この3点を自社の問い合わせに当てはめて、①②で減らせる分と③で吸収する分を分けてから見積もりを取ってください。
まとめ
カスタマーサポートのコスト削減は、「時給を下げる」ではなくコスト構造のどこを動かすかで考えます。手順は、①FAQ・セルフサービスで件数を減らす → ②テンプレートやAIの下書き(人がレビュー)で1件あたりの工数を減らす → ③繁閑に合わせて外注し固定費を変動費化する、の順が失敗しにくい進め方です。内製の採用費(中途約103万円)や離職ごとの再教育といった隠れコストまで棚卸しし、外注の変動費と並べて比べることが、品質を落とさずにコストを下げる出発点になります(本記事の相場・数値は調査時点: 2026年7月)。