ITに詳しい社員がいない、紙やExcelで業務が回っている——そういう会社でも、AIは始められます。ただし始め方が違います。難しいシステムを導入するのではなく、ChatGPTのような汎用AIに、いつもの作業のたたき台を作らせるところから始めるのが現実解です。
具体的には、次のような身近な作業が入口になります。
- 見積書・請求書の文面のたたき台を作る
- メールや問い合わせへの返信の下書きを作る
- 会議の録音やメモから議事録を要約する
- 社内向けの案内文・手順書の下書きを作る
- Excelの集計で使う数式や、表の要約を作らせる
共通しているのは、AIに「完成品」ではなく「たたき台」を作らせ、人が確認して仕上げるという分担です。この形なら、専任のIT担当がいなくても、ITに明るくない担当者一人からでも始められます。以下では、なぜ非IT・アナログでも始められるのか、身近な業務ごとの使い方、専任担当なしで回す進め方、そしてつまずきやすい3点への対処を順に整理します。
なぜ「非IT・アナログ」でも始められるのか
数年前まで、業務にAIを使うには専用のツールを契約し、自社のデータを取り込む設定が必要でした。ここが非IT企業にとっての壁でした。
いま入口が下がったのは、ChatGPTをはじめとする汎用AIが、ブラウザ上で文章をやり取りするだけで使えるからです。専用のシステムを組む必要はなく、日本語で「こういう見積書のたたき台を作って」と頼めば返ってきます。表計算や会計ソフトを新しく入れ替える話でもありません。いま紙やExcelでやっている作業の、下書きを作る部分だけをAIに手伝わせるところから始められます。
つまり、非IT企業がまず向き合うのは「システム導入」ではなく「作業の頼み方」です。ここが分かれば、専門知識がなくても入口に立てます。
身近な業務とAI活用例の対応
「何に使えるか分からない」という声が多いので、日々の業務とAIの使い方を対応させて整理します。いずれもたたき台・下書きまでをAIに任せ、最終確認は人が行う前提です。
| 身近な業務 | いまの手作業 | AIに任せられること(たたき台まで) |
|---|---|---|
| 見積書・請求書 | 毎回ゼロから文面を書く | 項目と金額を伝え、体裁の整った文面のたたき台を作らせる |
| メール・問い合わせ返信 | 似た内容に毎回書き起こす | 要点を渡して丁寧な返信の下書きを作らせ、人が直して送る |
| 議事録 | 録音やメモを聞き直して清書する | 録音の書き起こしやメモを渡し、決定事項とToDoを要約させる |
| 社内文書(案内文・手順書) | 前例を探して書き直す | 目的と伝えたいことを渡し、下書きを作らせて人が整える |
| 簡単なデータ集計 | Excelの数式を調べながら組む | やりたい集計を言葉で伝え、数式や手順を作らせる/表の要約を作らせる |
表のどれも、新しいソフトを入れる話ではありません。いま手でやっている作業の下書きを、AIに肩代わりさせるだけです。まずはこの中から、自社で毎週くり返している作業を1つ選んでください。
専任のIT担当がいなくても回す進め方
非IT企業でつまずきやすいのは、「詳しい人がいないから広がらない・続かない」という点です。ここは進め方で対処できます。
- 1人・1業務から試す——全社で一斉に始めるのではなく、まず1人が1つの作業(例:問い合わせ返信の下書き)で試します。うまくいく形が見えてから広げます。
- うまくいった指示文を書き溜める——AIへの頼み方(プロンプト)で結果は変わります。うまくいった指示文を1つのファイルにコピーして溜め、全員が使い回せるようにします。これが「詳しい人」の代わりになります。
- 使うサービスを1つに絞る——複数のサービスを併用すると管理も判断も難しくなります。会社として使うAIを1つに決めると、設定もルールも一本化できます。
- 確認は人が担うと決める——AIが作るのはたたき台です。顧客に出すもの・お金に関わるものは、必ず人が確認してから外に出す、という線引きを最初に決めておきます。
この4つは、専門知識よりも「決め事」の問題です。ITに明るい人がいなくても、決め事を先に置けば運用は回ります。
身近な業務の一つであるメール対応をAIに任せた具体的な運用は、『「メール当番」をAIに引き継いだ日——定型9割・判断1割の分業設計』で、分類の作り方から人間承認の線引きまで公開しています。
つまずきやすい3点と、その対処
導入が止まる原因は、だいたい次の3つに集約されます。
1. 何に使えるか分からない
一番多い入口の壁です。対処は「AIの機能から考えない」ことです。自分が毎週くり返している、成果物が文章の作業を1つ挙げる——ここから逆算するとムダがありません。前掲の対応表は、その候補リストとして使えます。まず1つ試し、手応えがあれば隣の作業に広げる、という順番が続きやすい形です。
2. セキュリティが不安
「情報が漏れるのでは」という不安は当然です。対処の入口は、入力しない情報を決めることです。顧客の個人情報、未公開の取引条件、契約書の中身など、社外に出したくない情報はそのまま入力しない、というルールを先に置きます。そのうえで、入力内容をAIの学習に使わせない設定のあるサービスを選び、会社として使うサービスを1つに絞れば、現実的なリスクは抑えられます。「絶対に安全なツールを探す」より、「危ない使い方をしない決め事を作る」ほうが、非IT企業には現実的です。
3. 続かない
最初の数回は使っても、いつの間にか元の手作業に戻る——これもよくあります。原因の多くは、うまくいった使い方が個人の中に留まり、共有されないことです。前述のとおり、うまくいった指示文を1つのファイルに書き溜めて全員で使い回すと、品質が揃い、担当者が代わっても続きます。定着は根性ではなく、共有の仕組みの問題として扱うのが現実的です。
外部の支援を使うという選択肢
自社だけで最初の型を作るのが難しい場合は、外部の支援を使う手もあります。選択肢の一例として、弊社(株式会社wren)の自走支援を挙げておきます。
弊社は、非IT・中小企業向けに業務の棚卸しからAI活用の診断・社内研修・導入後の伴走までを行っています。進め方は、まず現状の業務を診断してAIを使える作業を洗い出し、社内研修で身近な業務からの使い方の型を作り、その後の顧問で定着まで見る、という流れです。社内研修は60万円、その後のAI顧問は月12万円からです。研修だけ、あるいは特定の業務に絞った相談だけ、という始め方もできます。
ここで大事にしているのは、ツールを入れて終わりにしないことです。研修で作った使い方が、支援が終わった後も社内で回り続ける状態を目標にしています。
まとめ:システム導入ではなく、身近な作業のたたき台から
非IT・アナログな中小企業のAI導入は、「難しいシステムを入れること」ではありません。いつもの作業のたたき台を、汎用AIに手伝わせることです。見積書やメール、議事録、社内文書、簡単な集計——毎週くり返している文章仕事を1つ選び、たたき台をAIに作らせ、人が確認して仕上げる。この形なら、専任のIT担当がいなくても始められます。
つまずきやすい「何に使えるか分からない/セキュリティが不安/続かない」の3点も、機能ではなく決め事と共有の仕組みで対処できます。まずは1人・1業務から、小さく始めてみてください。